遠藤周作『悲しみの歌』読了
遠藤周作の『悲しみの歌』を読了した。
前から読もう読もうと思って、先延ばしになってた小説。
書店で作者の小説『沈黙』の映画化のポスターを見かけて、
改めて遠藤周作を読んでみようと手にとった。
そして、全てを読み終えた時に、タイトルと小説のテーマが僅かほどの隙間もなく、
ピタリとハマった、そんな印象を受けた。
話は太平洋戦争末期にとある大学病院で行われた人体実験に遡る。
この時助手として、実権に参加した医師勝呂は、B級戦犯として刑期を終え、
新宿の小さな医院の医者として、ヒッソリと働いていた。
彼の元には街中でケガをした人や、中絶を望む男女、末期癌の老人など、
色んな人が患者として訪れる。
そんな彼の元に一人の新聞記者が取材にやってきた。
先の大戦中に犯罪を犯した人物を弾劾する正義感溢れる若者に、
勝呂は次第に追い詰められていく。
そんな中で勝呂は、末期癌に侵された老人の希望に押し負けてしまい、
老人を安楽死させる。
人を救う医者が人を殺すことが許されていいのか。
新聞記者は彼を断罪していくのだが…。
タイトル通り、悲しい話だった。
人は綺麗に生きることができるのか。
建前と本音、理想と現実。
人は生きる中で、常に闇を抱えて生きないといけない。
この作品では、そういう闇を抱えた人物が多数登場して、
それぞれの生を紡ぎだしている。
その闇を否定すること、それは生を否定することなのではないか。
理想通り生きられれば、それほど楽なことはない。
しかし、理想通りに生きられない悲しい現実が眼前にある。
悲しみを抱えながら、ひたむきに生きる勝呂医師。
その生き方を読み終えた時に、
タイトルの『悲しみの歌』と小説のテーマがピタリと一致した、そんな気がした。
生きるということを、描き切ったこの小説。おススメです。
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